ヤニカスおじさんの生態

ヤニカスの汚いおじさんが与太話を書きます。

私が高級食材だった話

「私はちょっとガタイがいいだけで断じて太ってる訳ではない」
 そう自分に言い聞かせていたのですが、健康診断というのは残酷なもので。
 公共機関から、
「お前デブ。このままだとヤバいから再検査な」 
 ……という内容を丁寧な言葉を使った書面で送られると、心に来るものがありますね。
 しかし、いくら傷付けられたとはいえ、再検査を受けないといけません。
 「デブだから」という理由で有給を申請させられるとか、どんな羞恥プレイでしょうか。
 でもポジティブに考えれば「デブだから」有給が貰えたとも言えます。
 何事も前向きに捉えて行きましょう。
 
 そんな訳で有給を頂戴して再検査受けに行きました。
 検査はつつがなく午前中で終わりましたので、後は私の時間。
 矜持を傷付けた診断結果に、全力でレジスタンスしていきましょう。
 おじさんだって、まだ反骨精神と言う牙は失ってないんですよ?
 
 という事で近くにあったとあるラーメン店で野菜アブラマシマシカラメという呪文を唱えると、あらびっくり。
 山盛りのラーメンが現れました。
 
 ぶひ〜! うまいデブ〜。
 
 そんな感じで幸せと言う名の麺を噛み締め、喜びと言う名のチャーシューを食み、全力でレジスタンスしてから一ヶ月。
 再検査の結果が届きました。
 
「お前、脂がヤバい。超ヤバい。一ヶ月以内に病院へ行け。じゃないともっとヤバいかもね」
 ……という内容が、またしても丁寧な言葉遣いで送られて来ました。
 どうやらレジスタンスは失敗に終わったようです。
 やはり公共組織を相手取るのに、おじさん独りでは荷が重かったみたいですね。
 くやしいけれど、反抗に失敗した私は刑に服さないといけません。
 とはいえ流石に2度目のデブ有給は取れませんから、休日にホスピタルへ。
 
 病院では簡単な問診後に、腹部エコーとやらを取ることに。
 ぬるぬるした液体をお腹に塗りたくられて女医さんに検査器具で撫で回されると言う、ある意味そういうプレイじみた検査の後、診察室と言う名のお白洲に引き立てられる私。
 お医者様と共にエコーの写真を見ながら判決を伺います。
「この、真っ白な部分が見えますか? これ、肝臓なんですけど白い部分は全て脂肪です。 医学的にはブライトリバーと言われる状態ですね」
 
 輝く川(ブライトリバー)!
 詩的で、ちょっと素敵ですよね。
 薄汚いおじさんの体内にも輝く場所があったなんて!
 自分が眩しいです。
 
「日本語で言うと脂肪肝ですね。今はギリギリ大丈夫かも知れませんが、これが続くと身体に問題が出ますから減量しましょうね」

 ……肝臓の方じゃないですか。
 おじさんの肝臓がフォアグラじゃないですかッ!
 どうしましょう、私の内臓が世界三大珍味の仲間入りをしています。
「……つまり肝臓がフォアグラみたいになってるって事ですか?」
 震える声でお医者様に尋ねました。
「正確には『なりかけ』ですね。運動をしたり食事を節制するなどをして、体脂肪を減らした方が良いと思います」
 
 ジィィィーザス!!
 なんという事でしょう、何も悪い事してないのに死刑判決を受けたような気分です。
 我が神、我が神。どうしてあなたは私をお見捨てになったのですか。 
 
 その後、定期的な検診と減量を約束させられ、5000円ちょいの診察料を毟られた私は失意のまま帰宅しました。
 
 
 ……で、色々考えたんですけど。
 辛い思いをしましたが、女医さんからお腹を撫で回されるプレイを5000円ちょいで受けられた事を踏まえたら、トータルでプラスって事でいいですかね?