ヤニカスおじさんの生態

ヤニカスの汚いおじさんが与太話を書きます。

タバコという霞を食べて生きているので、ある意味私は仙人。

 今週のお題は「習慣にしたいこと・していること」だそうです。

 とりあえず私がこの間まで実践していたものを紹介しましょう。

 

『身体に悪いアブラで、体内の悪い脂を倒す』
 

 これは日本健康学会とかの学術誌に掲載可能なレベルで素晴らしいと思われる、私の考案したパーフェクトな理論です。
 二郎系・家系・背脂チャッチャ系みたいなドギツイ脂は、私の様なわがままボディの人間にとっては命の燃料ですし、ニンニクと脂が組み合わさったら美味しいなんて事はイタリア料理とかが証明してますからね。
 まあ実践した結果、公共機関から『デブ痩せろ』という書面を頂戴してしまいましたけれど。
 こちとら気分良く太ってただけなのに何と辛辣なのだろうと憤慨していましたが、くやしいけれど痩せた方がいいのは多分事実。
 食事制限とかも考えたのですが、ウサギさんでもないのに葉っぱばっかり食べてられないですからね。
 となると、やはり運動して代謝をあげるしかありません。

 

 最初はランニングとかを考えたんですが、喫煙歴が既に四半世紀を越えている生粋のヤニカスである私。
 走り始めて5分もしないうちに肺が悲鳴をあげる未来しか見えません。
 毎日タバコを吸って肺を鍛えてるはずなのに不思議ですよね。
 
 次に考えついたのはトレーニングジム。
 ……ですが何か怖いんですよね。
 そういう場所にはもれなく筋肉モリモリマッチョマンなトレーナーが居るんでしょう?
 お手本と言いながら腹筋マシーンで獲れたてのエビみたいなぴちぴちした動きでガッコンガッコン腹筋して汗だくになった後、ニッコリ微笑みかけながら『さあ、やってみろ』とか言うんですよね?
 そしてブザマな動きで腹筋運動をしている私に対してこう言うんです。
『そんなオガクズの中で死んだ目をしてるエビみたいな腹筋じゃダメだ! 旬のクルマエビのような腹筋を出来るようになれ!』
 ……やだ怖い。私、エビにされちゃう。
 まあ、これは私が学生時代に指導を受けた体育教官の話ですから令和現在には存在しないんでしょうけど、万が一にも居たら嫌じゃないですか。
 
 となるとプールでスイミングとかでしょうか?
 家から割と近くに区のプールがありますし、今は見る影もないくらい小太りの汚いおじさんな私ですけど、若い頃は水泳やってたんですよ。
 学校の近くに当時としては珍しい温水プールがあったので水泳部があったんです。
 でも現在みたいなスポーツ科学に基づいたトレーニングとか存在してなかった時代でしたからね。
『体力の限界まで泳げば、身体は自然に一番少ない力で進む泳ぎ方になる』
 とかいうスポーツ根性論の元、フォームとかどうでもいいからとにかく泳げと50mプールをぐるぐるとマグロみたいに泳がされていました。
 平日は5km、合宿では毎日10km走って20km泳ぐ生活を一週間とかやっていた訳です。
 さすがに今同じ事をやれと言われたら2日目で死んだ熱帯魚よろしく水面にプカプカするでしょうけど、週に1kmくらいなら何とかなりそうな気がします。
 
 と言う訳で仕事も多少落ち着くであろう4月をメドに、週1で水泳を習慣にしようかと思っています。
 運動を続けていれば代謝も上がるでしょうから今より食べてもOKだと思えば頑張れそう。
 やってたら何かあるでしょうから話の種にもなりますしね。
 とりあえずアマゾンで水着をポチる所から始めてみます。

 という訳で水泳を習慣にしたいなぁ、というお話でした。
 
――――

 

 

 追伸:来週には喫茶店紹介の続きを投稿出来ると思います。

ヤニカスが石を投げられない喫茶店④

 駅にある喫煙所の扉を開いて外に出たら、通り掛かった外国人の方が眉をしかめ「oh,bad smell」と呟かれました。
 どうやら私は国際的にくさい存在だったようです。
 少し傷付きましたが「グローバルバッドスメラー」って横文字にすると何かのインフルエンサーぽい気がしますし何だかカッコいい気がするからセーフ、という事にしておきましょう。
 さて、そんな感じで今日もヤニカスokな喫茶店を紹介して行きますね。
(*店内撮影不可らしいのですが、食べログとかだと料理の写真は載っているので私もその基準で写真を使わせて頂いています。問題あるようなら後で消えます) 


[秋葉原 カフェモコ]
 お店の場所はJR秋葉原駅電気街口を出て3分掛からないくらい。

 昭和通りに面したビルの一角にひっそりとある喫茶店です。
 店のシンボルはタバコ吹かすおじさんのシルエット。

 ヤニカス的にはとても魅力的で勇気付けられるマークですよね。
 店内入ってすぐのカウンターで商品のオーダーと会計を済ませるスタイルで、頭上は色とりどりの輝く電飾で彩られていて縁日ぽい雰囲気。
 そして商品一覧のボードと共に、様々な国の紙幣がクリップで大量に留めてあります。
 ドルとか人民元はもちろん、全然知らない国の紙通貨が一面に飾られていて、見ているだけでワクワクしてきますね。
 紙幣の隅に「thank you〜」とか書かれていたので、おそらく外国人観光客の方が残していったものでしょうか?
 ジンバブエドルとかあったら面白いなと思って注文待ちの間に探しましたが、最近老眼が気になり始めているおじさんアイでは発見出来ませんでした。残念。
 
 B1F、1F、2Fとフロアがあって2Fのみ喫煙可。
 オーダー完了してお会計を済ませると、食事は後で届けて下さるとの事なので飲み物だけ貰って喫煙可能な2Fまで上がります。
 ここで注意点がひとつ。
 お店の心遣いにより、飲み物は全てカップのフチ辺りまでたっぷり並々と注がれているんですね。
 つまりコーヒーをこぼさないように階段を上がるのに、かなりの技術が必要でして非常に難易度が高いんですよ。
 タイミング悪く、階段の途中で他の方とすれ違いなどが発生するとコース取りの難しさは天井知らず。
 気分はまるで繊細なドラテクで峠を攻めるイニシャルDの拓海さん。

 訪れた人のバランス感と巧みなコーナーワークの見せ所なんですよ。
 ええ、もちろん私は毎回こぼしてますよ?
 カフェモコ峠は初心者にとって難しいコースですからね。仕方がないのです。
 
 さて慎重な足捌きで階段を踏破すると、そこは喫煙可能席というエルドラド。
 店内壁紙や照明もお洒落レトロな素敵空間で、店内BGMはジャズやボサノバが流れています。
 後はヒョウとか虎とかネコ科の猛獣の置物が、店内のあっちゃこっちゃに設置されています。
 多分、秋葉原という土地柄とお洒落が絶妙なバランスで交わり合った結果として、このような面白不思議お洒落な空間が形成されたのでしょう。
 地政学的見地からしても大きく間違ってはいないんじゃないでしょうか。
 よく知らないですけど。
 
 店内は秋葉原の喫煙者が集まって居るようで大体混んでます。
 空いてた窓際のカウンター席に腰を下ろすと、テーブル上には先客であるカエルの置物。

カエルとコーヒー

 このカエルさん、王冠を被っているのに物憂げな表情で頬杖をついたまま体育座りをしておられまして。
 よく見ると首元に六文銭みたいなネックレスが掛かっており、そこに付いている缶バッジに何か文章が書かれています。
 『私は暴力が嫌いだ』
 ……詳細は不明ですが、とても苦労をされているようですね。

 店内に居るネコ科の猛獣達に甘咬みされたのかも知れません。
 どんな目にあったか彼は語ってくれませんでしたが、お互い強く生きて行きましょうね。
 カエルさんが受けたであろう仕打ちを想像し、ちょっぴり切ない気持ちで飲んだコーヒーは苦みと酸味が薄いタイプ。
 飲みかけで放置してしまっても、あまり酸っぱくならないコーヒーでした。
 大井町のポットリーに続き、イケオジなマスターさんは私の中で勝手に「コーヒーを美味しく淹れてくれる妖精さん」に認定します。
 
 そんな感じでコーヒーを飲みながら料理が提供されるまで、店内を見渡してたのですが……
 後ろの席にはイチャつくカップル。
 私と同じ窓際のカウンター席では、オーダーした商品と一緒に持参した人形と撮影を楽しんでいる方。
 両者が混在する喫茶店など秋葉原くらいでしかお目に掛かれないんだろうな、などと考えながらコーヒーを啜る汚いおじさんである私。
 バラエティ豊かな人々を包み込み、ボサノバをBGMにして実に緩やかな時間が流れます。
 
 料理の紹介。

チーズホットドッグ

 パンからはみ出るソーセージにチーズをたっぷりかけて焼かれた逸品。
 パンとお皿の間に薄黄色のプレートみたいなのがあって、何だろうと思ったらチーズが羽根みたいになってました。
 羽根付餃子なら知ってますが、羽根付ホットドッグは初めてです。
 更にプレートの空きスペースは許せないと言わんばかりに、ポテトチップスが山盛りで付け合せられていまして。
 何だかアメリカの風を感じるディスプレイですね。アメリカのホットドッグとか食べた事ないですが多分そう、部分的にそう。
 見た目に圧倒されつつ、付属したケチャップとマスタードをビッチビチに振りかけて頂きましょう。
 齧り付くと、温かで焼きたてっぽいふっくらしたパン、ソーセージ、チーズ、ケチャップ、マスタードの夢コラボが口の中で弾けます。
 こんなの美味いに決まってるじゃないですか。
 口の中が油っぽくなったらコーヒーで口を洗い、思い出したようにポテチを齧り、カリカリになった羽根チーズを摘む。気分はまさにアメリカンキッズです。
 コーラの方がよりキッズぽい感じになったかなと思いながら食していたのですが、気付けば口の周りと手がベトベトに。
 あらやだ。今のおじさんの食事風景ったら、まんまアメリカンなキッズじゃないですか。
 提供されたホットドッグをキッズみたいに手掴みで思うがまま食し、無事完食。ベタついた口と手を紙おしぼりとナプキンで拭ってから〆にクッキーを頂きます。
 童心を思い出させてくれる、とても素敵なメニューですね。

焼肉ドッグ

 ホットドッグのバンズにレタスを敷き、焼肉を挟んだ逸品。……正確にはパンの隙間に肉を詰められるだけネジ込んだ逸品です。
 もちろんプレートの空きスペースは美しくないですから、ポテトチップスもどっさり付いてきますよ。
 囓ると甘辛いお肉の味が口いっぱいに拡がります。散らされた白ゴマも良いアクセントで美味。ご飯が欲しくなってしまいますね。
 これはフォークが一緒に提供されたのですが、お肉だけだとちょっとしょっぱいですし、パンを齧ろうとすると使うタイミングなさそうなので、結局使用できませんでした。
 カフェモコ上級者の方はどう使うのか、が少し気になります。
 

焼きそば

 極細麺をたっぷりのキャベツとソーセージに絡めて焼き上げた逸品。
 皿にどっかりと盛られた焼きそばの上には刻み海苔。紅ショウガも横に控えています。
 そして何故かパンも一緒に提供されます。
 ……パン??
 頭に疑問符を浮かべながらよく見ると、中央に切れ込みが入っていました。
 なるほど! これ使って自分で焼きそばパンを作れ、という事ですね。
 カフェモコスタイルでパンの隙間に限界まで焼きそばをネジ込んで、紅ショウガを散らせば、おじさん謹製の焼きそばパンが完成。
 焼きそばパン作れるとか、遊び心があって素敵過ぎませんか。
 ちなみにパンに挟んでも普通の焼きそばくらいの量は余ります。
 味としては縁日で食べる焼きそばをオシャレにした、すごくいい感じのソース味でした。
 

カルボナーラ

 とろっとろなカルボナーラパスタの中心に卵黄が鎮座し、ピリりと胡椒の効いた逸品。
 残ったパスタソースに着けて食べる用なのか、こちらもパスタ本体とは別にパンが一緒に提供されます。
 パスタとソースの絡み具合、卵黄のまろやかさ、胡椒の刺激がとてもいい感じで美味しかったです。
 パンはバターの効いた少し甘めなクロワッサンで美味でした。
 
 カフェモコの料理は何を頼んでも「物足りない」と感じる事がないです。
『食べ物を頼むって事はお腹が空いてるって事だよね? よし任せとけ! 必ず君のお腹を幸せで満たしてあげるよ!』みたいな感じでしょうか。
 とにかく食事を頼んだ客をお腹いっぱいにしてあげたい、という店側の思い遣りがビンビン伝わって来ますね。
 頼んだ食事メニュー全てにクッキーついてきてますから食後の口直しもバッチリです。
 喫煙される方には大きく頷いて頂けると思うのですが、満腹になった直後に吸うタバコのまぁ美味しいこと。
 食後はタバコとコーヒーを楽しみつつ、昭和通りを行き交う人々を眺めながら優雅な時間を過ごしました。

昭和通りを眺める虎とアイスコーヒー

 店の奥には昭和通りを見つめる虎の置物も居ますし、多分これがカフェモコのカウンターで食事した際の正しいマナーでしょう。

 

 

 しかし秋葉原も変わりましたね。
 私が初めて訪れた時は駅前にジャンクパーツ横丁みたいのがあって謎の部品がいっぱい置いてある、みたいな場所だったのに。
 当時の人に「秋葉原はお洒落になって、道端にメイドさんがいっぱい生えてる」って言っても誰も信じないでしょう。
 そんな時代の流れを懐かしみつつ、おじさんは秋葉原を後にしたのでした。


 
 以上、ここまで読んで頂いてありがとうございました。
 また都内の喫煙可能な喫茶店を紹介しようと思いますので、読んで頂ければと思います。

全ては楽しいアクシデント

 今週のお代は大移動との事です。
 いくつか思いついた話はあったのですが、どれもこれも聞く人がドン引きするだろうなという内容ばっかりでした。
 いくら私が汚いおじさんとはいえTPOくらいは弁えられるお年頃ですから、思い出した話はそっと心の棚へ戻します。
 おじさんしか居ない飲み会とかで使える事があるかも知れませんしね。
 さて他に何かないかなと考えたら、今の私は週末になるとタバコ吸わせてくれる喫茶店を求めて都内各地をフラフラしてる存在だったという事実に気付きました。
 喫煙可能な憩いの場を求めて放浪しているのですから、横文字にしたら『スモーキンジプシー』。
 流浪の民感が高い上にパッと聞いた感じのオシャレ感も高いので、これで行きましょう。
 ……まあ最初に思い付いたのは『不審者』と言う単語でしたし、こっちの方が限りなく事実に近い気がしなくもないのですが響きが良くないですからね。
 外見が汚いのですから、せめて言葉くらいは美しく飾りましょうそうしましょう。
 そんな訳で、これも広義の意味では大移動という事にさせて頂いて、今日は私の喫茶店巡りにおけるスタンスみたいなものを書いておこうと思うのです。
 
 最初に書いておきたい私の基本的な考え。
 それは「お店というのはどこも歴史があり、存続する限りは店側の経営方針が絶対に正しい」です。
 グーグルや食べログなどでたまに見掛ける初めて行ったであろうお店に対し悪意を感じるレビューを書いて居る方って、私にとってはとても不粋だと感じるのですね。
 特に個人経営のお店へ訪れてサービスの質に対して物申すのは本当に止めなさい、と声を大にして言いたい。
 お洒落な店だろうが場末の店だろうが経営が成り立っているならば、それが正解じゃないですか。
 お店を支えているのは誰かというと、そこへ通ってる方々な訳で。
 通う理由も人それぞれ。
 味、値段、立地、サービス、店の雰囲気……様々な理由で通うかどうかを判断していると思います。
 何かしら気に入る部分があるから店へ通い、それが経営を支えている訳ですね。
 支えている方々に共通するのは「その店が存在して欲しい」という思いじゃないですか。
 通っている人々がそれで良しとしているならば、フラっと1回寄っただけの人間が文句をつけるのは筋違いではないかと、そう考えているのです。
 そりゃ毎回高品質なサービスを店に訪れた全ての人へ提供出来るのが理想ですよ?
 でも接客というのは人がやる事。
 その時々で差が出るのは仕方がないと思う訳です。
 毎回ちょっとずつ違うのが個人経営店の楽しさであり面白さ。
 たまには思いがけないような出来事があるかも知れません。
 でも、そういった部分も含めて楽しめない方は外食する事に向いていないんじゃないかなと、おじさんは思うのです。
 
 昔、ボブ=ロスさんという画家の方がTV番組をやっていて彼は視聴者へ常々こう語りかけていました。
 
 『失敗なんてありません。全ては楽しいアクシデントなのです』
 
 この考え方は生きる上でとても大事だと私は思うんですよ。
 一般的には無い方がいいと考えられる失敗やトラブルも楽しんで行こうと言う姿勢。
 何か自分にとって悪い事が起きた時に不機嫌になるだけだと、自分が損しておしまいじゃないですか。
 でも、それを面白く他人に伝えて笑いが取れたなら、その場では嫌だった事をプラスに変える事が出来ると思うのですね。
 そういった心構えでいられる様になるとトラブルが楽しくなりますし、むしろ話のネタになるから何か起こって欲しいとすら思う様になります。
 すぐ不機嫌になるタイプの方って損するのを嫌がる人が多いと思うんですね。
 だったら損をプラスに変えられないかという方向に考え方を移動させられたら、毎日がちょっとだけ楽しくなるのではないでしょうか。
 
 ――――――
 
 あらやだ、今回あんまり笑いが取れない内容じゃないですか。
 そろそろ「そんな話要らないから喫茶店紹介しろよヤニカス」という言葉が聞こえて来そうなので進捗を報告しておきますね。
 今の所5件くらい紹介出来そうな喫煙可能な喫茶店があります。
 私の妙なこだわり的に1回行っただけで紹介っていうのはやりたくないので、もう少々お待ち下さい。
 今週中には1件紹介出来ると思います。

 

優しい嘘と生姜焼き

 今週のお題は「ほろ苦い思い出」らしいです。
「ほろ」どころか「苦しょっぱ辛い」思い出しかない私には難しい話題ですが、ひとつ書いてみようと思います。

 昔話になりますけど、おじさんが当時働いていた場所の近くには一軒の中華屋さんがありました。
 初めて連れて行ってくれたのは先輩であるKさん。
 性格的には「熱くなると心のタコメーターが一瞬でレッドゾーンに入ってしまう」という実に昭和気質な方で。
 そんなKさんに昼飯奢ってやるから行こうぜと連れて行って貰ったんですね。

 お店の内装としては……
 ガタつくテーブル。
 綿がハゲ散らかして所々にタバコの焼跡がついた椅子。
 店の端っこの上には小さなブラウン管テレビ。
 店の入口脇に置かれた本棚には新聞と漫画ゴラク。
 もちろん全てのテーブル上には灰皿が完備されている。
 ……といった絵に描いたような昭和の街中華。
 今現在、こんな店を見つけたらネットで調べたりもせずにウッキウキで突撃しますが、当時の私は20代前半。
 シケた店だなぁとしか思いませんでした。

 

「あらKちゃん、いらっしゃい。また来てくれたのね」
 入店すると、柔らかな笑顔を浮かべた優しそうなおばさんがお冷を持って私達を出迎えてくれました。
「いやー、やっぱり週に一度はおばちゃんの料理食べないと元気出ないからね」
 グラスを受け取った先輩も笑顔でそんな風に応じています。
 そんな会話を横耳で聞きながら、私は軽く会釈だけしてメニューを覗きます。シケた店とは言え、オゴりですからね。
 普段、教育的指導という名目で私に理不尽な暴力を与えて下さるKさんの財布に小さからぬダメージを与えてやらなければと、いう使命感に燃えていました。
 パッと見て一番高そうな麻婆丼セットにしようかな、とか考えていたら談笑していた先輩が一言。
「生姜焼き定食ふたつ。マヨネーズ多めで~」
 ……オーダーが自動で決まりました。さすがKさん、私の企みを野生の嗅覚みたいなもので察知したのでしょうか。
 それにしてもメニューすら決めさせて貰えないとは。
 若干不服そうな視線に気付いたのか、タバコを吹かしつつゴラクをパラパラ眺めていたKさんは私に視線を合わさず小声で言いました。
「不満そうだが、落ち着け。俺に感謝する事になるからな」
 まるで意味が分からないですが、意味深な言葉を呟いたKさんはそれっきりタバコとゴラクに夢中です。
 当時はスマホとかないですし、私もやることが無いのでタバコ吹かしてました。
 
「お待たせ~。熱いうちに召し上がれ~」
 しばらくして、笑顔のおばさんが料理を載せたお盆をもってこちらへやってきました。
「ありがとう。今日も美味しそうだね」
 笑顔で感謝の言葉を述べる先輩。
 私も「あざーす」みたいな全く心の籠ってないお礼の言葉を口にしながら提供された皿に視線を送ります。
 茶色というか黒色が目立つ生姜焼きは、見た感じそんなに美味しそうには見えません。
 まあ、食べもしないでウダウダ言うのは失礼ですからね。見た目は悪くても美味しいものってのは割とありますし。
 そう思って生姜焼きを口へ運びました。

 ……もぐ、ジャリッ。
 ……もぐもぐ、ジャリジャリ。

 何だか随分とクリスプな食感。
 味付けも塩気が足りていない感じです。
 というか私の知っている生姜焼きって、こんな砂を噛んでるような食感ではなかった気が。
 そして隠し味とは言えないレベルで苦いです。
 口の中で暴れる、言葉に出来ない味を私は無理矢理コップの水で胃へ流し込みました。

 

 色々と処理が追いつかなくなった私がKさんへ視線を送ると、彼は無言で指を左右に振ってから自分の皿を指し示しました。
 見ると、卓上にあった七味と胡椒をバカみたいに振り掛けたマヨネーズが。
 Kさんは無言のまま、その七味胡椒マヨネーズを生姜焼きに絡めて食べ始めました。
 調味料を爆盛にすることで乗り切れ、と?
 Kさんの皿を指差してから指先を自分に向けると大きく頷かれました。
 私も同じ様にマヨネーズへ大量の調味料を振りかけてから再度生姜焼きを口へ運びます。
 辛味の効いたマヨネーズの味が口の中で猛烈な自己主張をしていますが、先程よりは格段に食べやすくなりました。
 その様を見たKさんは力強くサムズアップ。若干涙目になった私もサムズアップを返します。
 でも、よくよく考えるとおかしいんですよ。私はただ、昼飯を奢ってもらいに来ただけのはず。
 何でどっかの特殊部隊みたいにハンドサインでやり取りしてるのでしょうか。
 
 さて『嫌いなもの、食べられないものは残していい』という現在の価値観とは違い、当時は『出されたものは全部食べ切るのが礼儀。なお、お残しは死刑』という考え方が主流。
 どんなものであろうと、箸をつけたものを完食しない、などという甘えは許されません。
 とりあえず胡椒七味マヨで多少マイルドになった生姜焼きを口に含み、それを端っこが若干カピッた白米と、魚介出汁というにはかなり生臭い味噌汁で胃へと送る、修行僧でもやらないような荒行を繰り返して無理矢理完食しました。
 最後はコップの水で口の中を洗って〆ましょう。
 ただの水道水が一番美味しいと感じるなんて、後にも先にもこの時が最初で最後だと思います。
 
「ごちそうさんでした、今日も美味しかったよ。また来るね」
 同じ様なタイミングで、この『生姜焼きと称される禍々しい何か』を食べ終えたKさんは、笑顔でおばさんにそう告げて会計を済ませて席を立ちました。
 私もごちそうさまでしたと告げて会釈すると、逃げるようにKさんの後を追います。
「いつもありがとうね、Kちゃん。また来てくれるのを待ってるわ」
 人のよい、本当に人の良い微笑みを浮かべたおばさんが私達を見送ってくれました。

 おばちゃんには絶対に声が届かない距離になった頃、私はKさんに詰め寄りました。
 やってる事は傷害未遂と言っていいレベルですからね。事情聴取をしないといけません。
 憤怒の表情を浮かべていたであろう私に、Kさんは色々と教えてくれました。

『あの店は元々酒好きのおやじさんと、おかみさんであるおばちゃんの二人でやっていた』
『ある日、おやじさんが脳溢血で倒れてそのまま亡くなってしまった』
『ひとりになってしまったおばちゃんだが、思い出の詰まったお店を畳みたくないので一人で続けていくことにした』
『おやじさんが生きている間、おばちゃんは接客担当。物凄く人当たりがいいから接客は完璧なのだが料理の腕は壊滅的』
『あそこの店で一番マシなのがあの生姜焼き。以前にN課長が麻婆丼頼んだら、真っ白なあんにハムが浮いたものが出てきた』
『頑張って完食しようとしたN課長だったが、酸っぱさに負けて残して帰った。おばちゃんはとても悲しそうな顔をしていた』
『おやじさんが生きている時から馴染みだったのでおばちゃんを悲しませたくない。でも毎日通うと流石に死期が早まるので週1回通っている』

 

 そんな内容をとつとつと語るKさんの説明を聞いて、私は驚愕していました。
 更衣室に置いてあった私の足用消臭スプレーを勝手に全身へ振りかけて、後でその事実に気付いて理不尽な暴力を私に振るったKさん。
 目が合ったという理由のみで駅前の階段でガラ悪めの方とキスするくらいの距離でメンチ切り合戦をした挙句、マウントポジションで相手をボコボコにしていたら警察にゲットされてそのまま留置所ステイコースになったKさん。
 ……そんなKさんに、まさか人間らしい心があったなんて。

 まあKさんの人柄はさておき、そんな話を聞いてしまったら流石に二度と行かないとは言いづらいじゃないですか。
 当時はインターネットとか会社のシステムくらいでしか使ってなかったですし、今と違ってググれば何でもすぐ出て来る時代じゃないですからね。
 私も週1回のお参りへ参加する事にしました。
 ……それで気付いたんですが。
 お店に『衛生責任者〇〇〇〇』って書いてあるプラ板が掲示されてるんですど、名前が明らかに男性なんですよ。
 んで、その事をKさんに尋ねたんですね。
「バカ野郎! 死んだおやじさんが天国から見守ってくれてるから大丈夫に決まってんだろ!」
 という、なかなかにエスプリの利いた言葉が返ってきました。
 色々ゆるかった当時だから許されましたが、今なら絶対に保健所が黙ってませんよね。
 まあ私の勤め先の方々だけでなく近所の方々もおばちゃんの事は気に掛けていたようで、なんやかんやお店の経営は続きます。
 おばちゃんはどんな時も優しくて、ちょっとKさんと仲違いした時も仲裁をしてくれたりしたので私も次第にこのお店が大好きになりました。
 
 数年経ち、私がちょっと遠くへ異動になって通えなくなってしまったのですね。
 この頃になるとおばちゃんの腕も結構上がって、生姜焼きの焦げもかなり無くなっていました。
 ファーストインプレッションが衝撃的過ぎたせいで、生姜焼き以外頼めなくなっていたので他の料理はどうだったのかまでは分からないですけど。
 異動してからもたまに思い出すことはあったのですけど、簡単に行ける距離では無かったのでそれっきりだったのですが……

 

 更に数年後、当時の職場へ久々に訪れる用事がありました。
 久々におばちゃんの生姜焼き食べたいなと思って、当時の記憶を頼りにお店へ向かったんですよ。
 お店があったはずの場所は小奇麗な住宅になっていました。
 記憶違いかな? と思って先に用事を済ませるかと当時の職場へ向かったら、Kさんが会いに来てくれたのです。
 用事を終えた後で一緒に喫煙所へ行き、当時よりも大分髪が薄く白くなったKさんと昔話に花を咲かせました。
 思い出話ですから当然あの店の話題になり、ここへ来る前に寄ろうとしたら場所分からなくなってしまったって言ったらですね。
 
 おばちゃんは私が異動して1年後くらいに亡くなっていました。
 店が全然開かないから、気になった近所の人が見に行ったら布団の中で眠ったまま息を引き取っていたらしいです。
 いきなりそんな話を聞かされて何も言えない私の前で、Kさんは大きく煙を吐き出してから言いました。
「あそこは本当にマズかったよな。……でも、今も時々無性に食べたくなるんだ」
 見たこともないような優しい瞳で、困ったように微笑んだKさんはそんな事を言いました。
「そうですね、本当に不味かったです。……でも、また食べたいですね」
 その時の私も、きっと困ったような笑顔だったでしょう。
 お互いにしばらく無言で煙草を吹かして喫煙所を離れ、私は帰路へつきました。
 
 
 ……書いたのを読み返して思ったのですが『ほろ苦い』というか『物理的に苦かった』話ですかね、これ。

雪道の紳士と害獣

 先日、東京にも雪が振りました。
 んで、おじさんの通勤途中に坂道があるんですけど。

 雪が降った日の翌日は雨と朝日を浴びて溶けかけた雪でテッカテカのツルッツル。
 まるで17時過ぎたくらいの私のオデコみたいになってましてね。
 当然滑るでしょうから、その坂を下っている結構な数の方々はほぼ全員が内股気味でよちよち歩き。
 道行く人々のコートが暗めな色合いなのも相まって、まるでペンギンさんの群みたい。
 よちよち、よちよちと内股気味の集団が一生懸命に駅へと向かって歩いている光景は大自然ドキュメンタリーぽくて。
 皆、コンクリートジャングルと言う大自然の中で強く生きているんだなぁ、と独り感動していました。
 
 そんな思いを胸に、私も群れに混じって階段を下りましょう。
 まあ、おじさんはスタッドならぬふとっちょですから?
 音の響きが似ている、という事は性能とかも多分似ているはず。
 という事は雪道の走破性も高いような気がしますので安心ですね。
 皆様と同じく内股のよちよち歩きで一生懸命に坂道を下って参りましょう。

 今日もこの一歩から、おじさんのドキュメンタリーが始まるのです。

 

 危ない場面もありましたが、無事に坂道を下りきりました。

 この先は駅まで平地が続きます。

 雪かきは済んでいませんが坂道ほどの危うさはありません。

 なので今まで内股よちよちだった皆様が急にスタスタ歩き出すんですね。
 ペンギンだった方々が、坂を下りきると一斉にサラリーマンへと進化を遂げる訳です。
 今まで弱々しかったものが大自然の中で揉まれ、強くたくましく生きていく。

 なんと感動的な光景ですなのでしょうか。

そのうちNHKドキュメントで番組になったりするんじゃないですかね。 

 さて私も皆様に続いてサラリーマンへ進化する時が訪れました。
 今日も社会の歯車として頑張っていきましょう。

 

 ……転びました。

「お゛ぉ゛ぅっ!」みたいな汚い鳴き声をあげて派手にすっ転びました。

 漫画みたいなコケ方をして地べたに這いずるおじさん。

 サラリーマンへ進化した方々が汚物を見るような視線を向けながら迷惑そうに避けて歩いて行きます。
 どうしましょう。

 他の方がまともな進化を遂げる中、私だけが陸に打ち上げられたトドみたいになっているではありませんか。
 皆様の歩行を邪魔しているという点で、むしろ環境汚染生物じゃないですか。

 

「大丈夫ですか?」

 ズブ濡れの危険外来種と化した私へ、そんな声が掛けられました。
 視線を上げると、細身のナイスミドルが心配そうな顔をして私を見ています。
 そのまま彼はそっと右手を差し出し、私を助け起こしてくれたのです。 

「身体で痛い所はないですか? 今日は道が滑りやすいですからね。お互い気を付けましょう」 

 微笑みながらそう言い残し、ナイスミドルは去って行きました。

 

 ちょっと、イケオジ過ぎませんか。
 何を食べたらそんなイケオジになれるんですか?
 生物学的にヒト科のオスって事以外、おじさんと何もかも違うじゃないですか。

 その時のおじさんはズブ濡れだったので、ある意味「水も滴るいい男」でしたが、大体一緒とか言えないくらいの隔たりがあるじゃないですか。
 2兆回くらい生まれ変わっても、あんな風になれない自信があります。

 生物として格の違いを思い知らされた、そんな雪の日の出来事でした。 

 

――――― 

 

 次のヤニカス喫茶紹介で冒頭に使おうと思って書いたのですが、長い上に時期が外れてしまいそうなので別枠にしました。

 山手線各駅のヤニカスok喫茶店とか書きたいなと思っていたのですけど、チェーン店以外の喫茶店て本当に少ないのです。

 チェーン店は喫煙ブースで吸える所も結構ありますが、あんまり面白みがないのですよね。

おもしろき こともなき世を おもしろく

 今週のお題は「元気を出す方法」との事ですので、折角ブログを作った事ですし参加させて頂きますね。

 

 いきなりで恐縮ではありますが、私は「闇に生まれ、闇に潜み、闇に飲まれる」という汚い牙狼みたいな生き方をしてきたおじさんです。

 遥かな古からは受け継いでいませんけれども。

 そんな社会不適合者にとって、生きる事は基本的に苦しょっぱいものです。

パワハラ? 何それおいしいの」という時代をどうにか生き延びてきましたので、叱責・御指導ご鞭撻・怒りの鉄拳などは日常茶飯事でございました。

 そんな私にとっての慰めはタバコと、学生時代の先輩から受けた教えです。

 仮にMさんとしておきますが、なんでやねん地方出身の雰囲気イケメンで、普通に生きてたら多分接点は無かったでしょう。

 でも同じ漫画が好きという点で話が合い、いつのまにか仲良くなりました。

 タバコもMさんに教えられました。

 当時、今より遥かにヒネており斜に構えるのが格好いいと思っていた私に、Mさんはいつもダメ出しをしてくれました。

 

「あった事を普通に話してどないすんの? そんなんじゃ相手がオモロないやん。話なんてもんは盛ってフカしてナンボよ。相手を楽しませない会話は商売ん時だけでええわ。盛り過ぎたら言葉の最後に『よう知らんけど』って着けといたらええ。したら、どんだけ盛っても許されるわ。……よう知らんけど」

「……テキトー過ぎませんかね?」

 

 とはいえ言っている事はもっともです。

 それから話をする時は『少しでも笑いを取る』を意識するようになりました。

 最初は全然ダメでしたが、段々と笑ってくれる人が増えていきます。

 それを心地よいと感じた私は、段々と調子に乗ってしまったのでした。

 ある時、後輩をイジって笑いを取っていたらMさんから喫煙所のツレとして呼ばれました。

 タバコを吸いながら、少し困った顔でMさんは言いました。

 

「お前のイジり方はアカンね。相手嫌がっとるやん。イジった相手が笑うくらいオモロい事を言えへんなら、才能ないわ。せやったら自分の欠点をオモロおかしく話して笑い取りぃ。お前はオノレん悪い部分を出すんは恥ずかしいと思ってるんやろけど、欠点って言うのは欠けてるって事やろ? 研いだらトガった強い武器になるんよ」

「……だから先輩は仮性で早漏っていうのを持ちネタにしてるんですか?」

「せやね。もう俺の息子ときたら恥ずかしがり屋なのに辛抱効かんくて…ってアホゥ! 誰がナニワのアイルトン=セナやねん!」

「……言ってないですけど」

「そこは『アイルトン=セナに謝って下さい』って返すトコやろ!」

 

 というような心温まるやりとりを得て、今の私は存在します。

 ……って冷静に考えたら、おじさんがヤニカスなのもテキトーな事ばっかり言ってるのもMさんの影響じゃないですか。

 謝って下さい。おじさんに土下座して謝って下さい。

 

 そんなMさんですが、美人だけど辛辣極まりないツッコミを入れる嫁を貰って地元に戻りバリバリ働いていたらしいですが、暴飲の影響か50手前でこの世を去りました。

 何も本当にアイルトン=セナにならなくても良かったでしょうに。

 

 Mさんは、私に返せない程の恩と笑いと笑顔を与えてくれました。

 その恩を返す相手はもう居ませんが彼の意思を継ぐ事は出来るはずです。

 おじさんにとって元気を出す方法は、日常の些細な事を笑いに変える事。

 私はもう独りで出来るので、こうして与太話を書き、読んだ人が少しでもクスっとして元気を取り戻してくれる事を目標にしています。

 

 おもしろき こともなき世を おもしろく

 

 高杉晋作さんの言葉ですが、これって大事な考え方だと思うんですよね。

 毎日がつまらないと嘆くより、少しでも笑える様に発想を変える。

 その方が素敵な生き方だと思うのです。

私が高級食材だった話

「私はちょっとガタイがいいだけで断じて太ってる訳ではない」
 そう自分に言い聞かせていたのですが、健康診断というのは残酷なもので。
 公共機関から、
「お前デブ。このままだとヤバいから再検査な」 
 ……という内容を丁寧な言葉を使った書面で送られると、心に来るものがありますね。
 しかし、いくら傷付けられたとはいえ、再検査を受けないといけません。
 「デブだから」という理由で有給を申請させられるとか、どんな羞恥プレイでしょうか。
 でもポジティブに考えれば「デブだから」有給が貰えたとも言えます。
 何事も前向きに捉えて行きましょう。
 
 そんな訳で有給を頂戴して再検査受けに行きました。
 検査はつつがなく午前中で終わりましたので、後は私の時間。
 矜持を傷付けた診断結果に、全力でレジスタンスしていきましょう。
 おじさんだって、まだ反骨精神と言う牙は失ってないんですよ?
 
 という事で近くにあったとあるラーメン店で野菜アブラマシマシカラメという呪文を唱えると、あらびっくり。
 山盛りのラーメンが現れました。
 
 ぶひ〜! うまいデブ〜。
 
 そんな感じで幸せと言う名の麺を噛み締め、喜びと言う名のチャーシューを食み、全力でレジスタンスしてから一ヶ月。
 再検査の結果が届きました。
 
「お前、脂がヤバい。超ヤバい。一ヶ月以内に病院へ行け。じゃないともっとヤバいかもね」
 ……という内容が、またしても丁寧な言葉遣いで送られて来ました。
 どうやらレジスタンスは失敗に終わったようです。
 やはり公共組織を相手取るのに、おじさん独りでは荷が重かったみたいですね。
 くやしいけれど、反抗に失敗した私は刑に服さないといけません。
 とはいえ流石に2度目のデブ有給は取れませんから、休日にホスピタルへ。
 
 病院では簡単な問診後に、腹部エコーとやらを取ることに。
 ぬるぬるした液体をお腹に塗りたくられて女医さんに検査器具で撫で回されると言う、ある意味そういうプレイじみた検査の後、診察室と言う名のお白洲に引き立てられる私。
 お医者様と共にエコーの写真を見ながら判決を伺います。
「この、真っ白な部分が見えますか? これ、肝臓なんですけど白い部分は全て脂肪です。 医学的にはブライトリバーと言われる状態ですね」
 
 輝く川(ブライトリバー)!
 詩的で、ちょっと素敵ですよね。
 薄汚いおじさんの体内にも輝く場所があったなんて!
 自分が眩しいです。
 
「日本語で言うと脂肪肝ですね。今はギリギリ大丈夫かも知れませんが、これが続くと身体に問題が出ますから減量しましょうね」

 ……肝臓の方じゃないですか。
 おじさんの肝臓がフォアグラじゃないですかッ!
 どうしましょう、私の内臓が世界三大珍味の仲間入りをしています。
「……つまり肝臓がフォアグラみたいになってるって事ですか?」
 震える声でお医者様に尋ねました。
「正確には『なりかけ』ですね。運動をしたり食事を節制するなどをして、体脂肪を減らした方が良いと思います」
 
 ジィィィーザス!!
 なんという事でしょう、何も悪い事してないのに死刑判決を受けたような気分です。
 我が神、我が神。どうしてあなたは私をお見捨てになったのですか。 
 
 その後、定期的な検診と減量を約束させられ、5000円ちょいの診察料を毟られた私は失意のまま帰宅しました。
 
 
 ……で、色々考えたんですけど。
 辛い思いをしましたが、女医さんからお腹を撫で回されるプレイを5000円ちょいで受けられた事を踏まえたら、トータルでプラスって事でいいですかね?