御徒町にある某喫茶店を紹介しようと思っていたのですが……
昨今のレトロ喫茶ブームのせいか、訪問するたびにインスタ女子めいた方が多く来店されていまして。
バブル期を思わせるレトロな店内と料理を自撮りされてる方ばかりなんです。
私はインスタとか開いた事すらないですけれど、キラキラした写真で溢れているのでしょう?
そういう方が撮られている『映え』を意識した写真に汚いヤニカスおじさんが写り込む、などという事はあってはいけません。
その時点でそれは『映えるフォト』から『汚物が映り込んだ呪いのフォト』に変化してしまいますからね。
そんなお祓いが必要な特級呪物を生み出してしまう訳にはいかないのです。
お店の売上的にもヤニカス1人よりインスタ女子複数の方が高いのは明白な事実。
……という訳で住処を追われる獣よろしく逃げるように店を後にした私。
ヤニカスを受け容れてくれるお店を求め、あてもなくフラフラと御徒町を彷徨っていました。
ヤニカスはタバコが無いと心が湿気ってしまう、とてもか弱い生物なのです。
別に嫌いでも構いませんので、迫害するのは勘弁して頂けませんでしょうか。
え? 滅びちゃえばいいのに?
やだプー。
さて、そんな湿気った心に火を灯せる場所が欲しい。
というかタバコが吸いたい。吸わせて。
ニコチン欠乏が割と深刻になってきた頃、ひとつの立看板を発見。そこにはこう書かれていました。
『モーニングサービス』
Aトースト・ゆで卵
Bトースト・ハムエッグ・サラダ
Cピザトースト・ゆで卵・ヨーグルト
Dおにぎり(2ヶ)・ゆで卵・味噌汁
……おに、ぎり?
喫茶店のモーニングで、おにぎりと味噌汁?
湿気始めていた心が、ワクワクで潤っていくのを感じます。
スマホを取り出して調べた所、なんと全席喫煙可。こんなの入るしかないじゃないですか。
という訳で今回のお店を紹介します。
[仲御徒町 ぶるっくす]
御徒町駅から高速道路をくぐって徒歩5分程度。オフィス街の中にひっそりと佇む喫茶店です。
店内BGMはお洒落なジャズ。
モーニングの時間はタフガイなマスターひとりですが、ランチタイムにはママさんや娘さん?が出勤されるようです。
お冷やと温かな布おしぼりが提供されましたので、いつも通りのおじさん仕草(顔拭き)を行って、ウッキウキでメニューを覗きます。
このムーブ、みっともないから止めろと言われるのですが、これは動くものを見たら飛びつくという猫ちゃんの本能と大体一緒。
そういう一連の儀式だと理解して頂きたい所存。まあ、おじさんは猫ちゃんと違って可愛くないですけれど。
さて顔もさっぱりした事ですし? オーダーをしましょう。
ここはやはりおにぎりが気になるのでDセットをオーダーし、店内を見渡します。
店の奥には昔ながらの喫茶店らしく、漫画の単行本がぶわーっと並んでいます。
おじさん達のヒーローである島耕作シリーズもありました。
私は課長だった頃の島さんまでしか読んだことありませんが、取締役にまで昇進なさっていたんですね。
そう言えば部長シリーズが連載されている頃、飲み屋で先輩と『島耕作の発展先を考える』みたいな話をしていたのを思い出しました。
『社長までは続くんやろけど、その先どうなるんやろか。やっぱり宇宙に出よるんかな? スペース島耕作とかメッチャ読みたいわ』
『それ単に先輩がコブラ大好きなだけですよね』
『何言うてんの。コブラがサイコガンで物事解決するみたいに島はんはトラブル起きたら、とりあえず女とベッドインすると何や知らんけど上手いこと行くんや。どっちも男のロマン。一緒や一緒』
『……絶対に違う気がしますけど、そこまで島耕作を読み込んでいないので反論できないのがくやしいっすわ』
というクソみたいな会話をしていたのが懐かしいですね。
ちょっと調べたら、島さん宇宙には行きませんでしたが異世界で御活躍なされているようです。
きっと異世界でも現地の女性とベッドインしたら何でか事件が解決してた、みたいな感じなのでしょう。
よく知らないですけど。
そんなどうでもいい事を思い出していたらコーヒーと料理が提供されました。
B:トースト・ハムエッグ・サラダのセット
……あれ?
どうやら私の発声が悪かったようでDではなくBセットが提供されました。この滑舌の悪さは本当に何とかしたい所。
コンビニとかでも8って言ってるつもりなのに1を出されるとかありますしね。
まあまあ、こんな事で動揺してはいけません。
『全ては楽しいアクシデント』
心のボブが笑顔で私に語り掛けてきます。センキューボブ、フォーエバーボブ。
気を取り直して提供されたBセットを頂きましょう。
トースト:厚切りで表面がカリカリに焼かれたトースト。マーガリンとイチゴジャム付。
ハムエッグ:たまごはとろっとろな半熟。ハムは切らしているとの謝罪があり、この時はソーセージで提供されました。
サラダ:千切りキャベツにマヨネーズがかかったもの。
コーヒー:苦めの酸味弱めで私好み。一杯は無料でおかわり可能との事です。
これらを頂きながら店内観察を続けていたのですが、店の壁側には色紙とサインが置かれています。
どうやらドラマの撮影で使われた事があるようですね。
壁にはランチに+¥250でケーキセットが追加出来る、などと書かれています。
Aオペラ、Bレアチーズケーキ、Cダブルベリーケーキらしいですが……
Aを頼んだらタフガイなマスターがシューベルトの魔王とか歌いながら提供してくれるのかしら?
多分ケーキの種類なんでしょうけど、おじさんそこまでケーキに詳しくないのできっと歌いながら提供してくれるんだと信じます。
以下メニュー。
モーニングセット:
C:ピザトースト
厚切りのパンにトマトーソース・チーズ・タマネギ・ピーマン・ソーセージを載せて焼かれた、これぞ喫茶店のピザトーストという感じの一品。
ゆで卵とヨーグルトが付いてきます。
たまごは昨今あんまり見かけないエッグスタンドに乗って出てきたのでちょっとテンションが上がりました。
ゆで卵を立たせるためだけの食器とか、すごい限定された用途の食器ですがまだ絶滅してなかったんですね。
D:おにぎり(2個)、ゆで卵、味噌汁セット
おにぎりの具は梅とタラコ。お漬物付。
梅は種を外した柔らかくて酸味が弱めなもの。タラコも程よい塩気のしょっぱすぎないもの。
大きめに握られていてとても食べごたえがあります。
味噌汁の具はたまご、しめじ、玉ねぎ。味は薄め……というか味噌要素がありません。
多分ですけどコレ、お吸い物では? おそらく味噌が切れていたのでしょう。
毎回メニューに微妙な変化があるのも、こういった個人経営な喫茶店の楽しい所ですよね。
ランチメニュー。
A:生姜焼き
豚生姜焼き、生野菜サラダにトマト1切れ、七味マヨネーズ、お吸い物のセット。
甘辛く一枚が大きな豚肉にスライスしたタマネギを絡めて焼かれた生姜焼き。七味マヨネーズがついてくるのが嬉しい。
別皿に結構多めなライス、キュウリのキューちゃんが添えられています。
ものすごくご飯が進む系の味付けです。美味。
B:ハンバーグ
ハンバーグ、添えられた生野菜、ちょこっとナポリタン。ライスにはタクワンが添えられています。
いかにも洋食、見ただけで美味しいヤツだと分かる外見。
このメニューは箸でなくナイフとフォークが提供されます。ハンバーグは外側がいい感じに焼けていて中はふっくら。
こんなの美味しいに決まってますよね。
デミグラスソースソースでしょっぱくなった口内をライスとタクワン、小松菜のお吸い物でリセットしながらモリモリと無言で食しました。幸せ。
C:プルコギ炒め
豚肉をにんじん、ナスと一緒に炒めてキムチといんげんを添えたもの。
この時はちゃんと味噌汁で具は油揚げと大根でした。
調理はタフガイな見た目のマスターがされているようですが、卵の絶妙な半熟加減といい、とても料理上手ですね。素敵です。
その他メニュー:
チキンドライカレー
米を鶏肉、卵、ピーマンと一緒にカレー粉で炒めた一品。
結構辛めの味付けで、量も多めです。
山盛りの福神漬けを添えてくれるのが嬉しいですね。
ここも休日はインスタ女子らしき方々が多くなって来ています。
写真を撮る、食事を味わう、感想をネットにアップする。
おじさんとやっている事は変わらない気がするのにインスタ女子はキレイ、おじさんは汚物という扱いなのは何故なのでしょうか。
やはりキラキラが足りてないんですかねぇ。
スマホケースを可愛いもにしたり、ラメラメにデコったりしたら仲間認定してもらえるのでしょうか。
……いや、汚物が不審者にジョブチェンジするだけですね。
やはり生物としての格みたいなものが違うのでしょう。
平日のここは近くに勤めるおじさま達が支えているのでしょうが、休日のここはその内にインスタ女子が制圧されてしまうのかなと、ちょっぴり切ない気持ちで私は店を後にしたのでした。